自分の近所でも65歳以上の農業従事者が多い。農業従事をする人が養護施設に入ったり亡くなったりして非耕作地になっている田畑もある。こういった風景はこの村に限ったことではなくて、全国的な課題となっている。
このような状況は今始まったことではなくて、随分前から提起されていたこと。なので国、つまり農林水産省も今までいろいろな方策を打ち出してきた。紆余曲折があって現在進んでいるのが「地域計画」だ。
地域計画ってなに?
そもそも「地域計画」ってなんなんだ?
農林水産省の資料によれば、地域計画は、 地域の話合いにより農業の将来の在り方を考え 、 それを実現していくとある。具体的にどういう事をするのか、農林水産省ホームページにある地域計画策定マニュアルを以下のようにまとめてみた。
地域計画の目的:
● 農業者の減少や耕作放棄地の拡大を防ぎ、農地が適切に利用されるようにすること
● 農地の集約化を進め、農作業の効率化や生産コストの削減を図ること
● 地域の関係者が一体となって話し合い、地域の農地を次世代(担い手)に引き継いでいくこと
地域計画策定のプロセス概要:
● 協議の場の設置:地域農業の将来について、幅広い関係者が参加して話し合う場を設ける
● 目標地図の作成:将来の農地利用の姿を示す地図を作成する
● 地域計画の策定:協議の結果と目標地図を踏まえ、地域計画を作成する
以上をまとめると、「耕作放棄地の拡大を防ぐため、関係者が話し合って農地を集約化し、担い手に耕作してもらう」、になる。背景にあるのは高齢化等による農業従事者の減少だ。
農地を集約するってどういうことなんだろう?地域計画では、複数の農業従事者の農地を現在の農地利用状況や今後の利用計画を基に、合理的な形に農地を集約するようだ。そのイメージが以下の図だ(出典:農林水産省、地域計画策定マニュアル)。左側が現在の状況を表す状況地図で、右側が集約化された後の地図のイメージだ。この集約された後の地図を目標地図と呼ぶらしい。

左側の各ブロックはそれぞれ筆ごと(登記上の土地)を表していて、色は耕作者を表している。これらのブロックをグループに集めて(集約して)、各カラー毎に農業従事者(担い手)が割り当てられるようだ。このイメージ図では全てのブロックが集約化の対象になっているけれども、実際には集約に含まれない農地(使いにくい、または使いたい人が居ない農地)もあるわけで、ある意味、収益性の高そうな使える農地が選ばれて集約されるということになると思う。といっても、農地(イメージ図の各ブロック)は個人の資産であって、大きさも条件や特性(水利や沼地など)もバラバラ。農林水産省のイメージ図みたいに簡単にはいかないだろう。そして、担い手になる人も利益を最大限にしたいわけだから、農地を選びたい。だから割り当ても一筋縄ではいかない事も予想される。なかなか課題は多い雰囲気だ。そしてそれを進めるのは地域関係者自らということだ。それゆえ地域計画では、地域の住民との協議の場を十分に持って、地域の総意の下で計画を進めることをガイドしている。しかし、これには関係者の間で問題意識の共有が必要だ。おまけに利害や感情が入り乱れるとすると、なかなかまとまらないような話にも思えるし、そもそも土地の所有者がどこまで頑張って話し合いに参加し続けられるのかってのも、、、難しい話だなって印象を持ってしまう。
大桑村での取り組みは?
大桑村では役場の農林係が中心になって地域計画の作成を進めている。
その役場主催の説明会(協議の場)が10月下旬に川向地区館であって参加してきた。国の方針として、農地の見える化と5年後の耕作者の明確化を令和6年度末までに完成させることを目標に進めているとのことだ。会合では、大桑村の現状として現在ある農地の全てを管理しようとすると、今の3倍の農業従事者が必要との話があった。つまり、裏を返せば現在ある農地のおよそ3分の2は既に管理できていないってことだ。
この計画を進める上で重要な資料は色分け地図、農林水産省のいう現況地図だ。農地整備された水田について事前調査に基づき水田所有者が5年後を見据えてそれぞれの水田について①自ら耕作、②親族が耕作、③第三者が耕作、④未定、のいずれかを申告していて、その結果が地図上に色分けされている。なお、この地図には現在稲作を行っていない水田(既に畑に転用されている水田や休耕田)も含まれている。一方、農地整備の対象外の水田は含まれない。

赤色の部分は5年後も水田所有者自らが耕作している見込みだということだ。そして青の部分は未定で子具体的な耕作計画がない(耕作者の見通しが立たない)ということだ。。後継者が居なければ5年後も自分で耕作する前提で考えないといけないので、5年後の自分の健康状態等を想像して赤(耕作)か青(放棄)のどちらかの選択になるわけだ。判断を迫られた方にしてみれば、将来の農地の利用の姿を考えるというよりも自分の健康状態の予測の方に気持ちが行ってしまうだろう。更に、2020年の国勢調査時点ではおよそ80%の農家に65歳未満の農業従事者が居ないと推定されるので、2040年時点では赤色と緑色は相当減少する、つまり青色に染まるのかもしれない。

しかしこれがわかったところでこれらの農地をどうやって集約すればいいのだろう。説明会では行政側から5年後に耕作未定つまり青色はJAファームへの斡旋などを検討するとの考え方が示された。けれど、その話と集約化とには距離がある。なぜなら青色の農地が分散していたら集約は難しいからだ。集約化できなければ効率化ができず、収益が上がらない。赤字覚悟で引き受ける人はいるのだろうか。
大桑村の地域計画って?
そもそも高齢化により村内の農業従事者が減少していく事が問題の根源だ。2020年の国勢調査に基づいた村の2023年統計資料によれば、村内の農家数は231戸あり、その中で農業経営を行っていて65歳未満の農業従事者、つまり後継者が居る経営農家(主業農家と準主業農家)は20戸だ。つまり、村内の農家でこれら耕作未定の土地を使って長期的に農業経営する可能性を持っているのはこの20戸だけと言ってもいいかもしれない。つまり、農地が集約化できたとしてもその農地を耕作する農業従事者が村内では今のところ見当たらない。
大桑村内11地区で開催された協議の場で出された意見が地区ごとに協議結果として報告されている。それらの今後の方針をまとめると以下になる。
農業の将来の在り方に向けた農用地の効率的かつ総合的な利用を図るために必要な事項
(1)農用地の集積、集約化の方針:後継者が未定の農地について、担い手にとって好条件な状態となるように集約を検討していく。
(2)農地中間管理機構の活用方針:認定農業者や新規就農者等の担い手が見つかった際には、農地中間管理機構を活用して農地集積・集約を進める。
(3)基盤整備事業への取組方針 農地:必要に応じて検討していく。
(4)多様な経営体の確保・育成の取組方針:農業委員会や村、県、JAと連携し、農地の斡旋や技術的指導をおこなって担い手を確保していく。
(5)農業協同組合等の農業支援サービス事業者等への農作業委託の活用方針:担い手への委託により合理的な農地の活用を検討していく。
とにかく担い手が計画の柱になっているのは間違いない。でも担い手の立場で考えてみると、大桑村で営農するモチベーションってなんだろう?って疑問が出てくる。が、大桑村で農業経営をすることのはずだ。
以下、水田にフォーカスして考えてみる。大桑村のような平らな土地が少ない中山間地で農地整備された水田の多くは棚田になっていて、傾斜面に沿った隣接水田との間の畔はかなり高低差がある法面になっている。

このような地形では一般的に集約効果は薄い(農機具移動を含む耕作や畔草刈など農地管理に余分な手間が掛かる)と言われている。実際、自分の水田でも工程差が3メートル以上ある急傾斜の法面の50メートル以上にわたる草刈りは本当に骨が折れる。だから、一般的に中山間地の棚田は平地の水田とはコスト的に不利といわれている。という事は、そもそも集約化の対象となる水田は限られるということかもしれない。言い換えれば、中山間地の棚田は国の地域計画の対象とは考えにくい(例外地域)と見ることもできそうだ。

「日本のコメ問題」小川真如著(中公新書)によれば、コメ作りは大規模にならないとコストパフォーマンスが上がらなくて、2ha だと時給換算1,086円、12haだと 2,456円といった試算になるそうだ。2024年の東京都の最低賃金は1,163円だ。2haだと東京都の最低賃金より低い(長野県最低賃金998円よりは高い)。なのでもっと高い農業所得、つまり極力12haを目指して農業経営したくなる。しかし、2020年時点において大桑村で稲作が行われている水田はその全てを集めても僅かに18haしかない。つまり、時給換算2,456円の12ha稲作農家は大桑村に2戸はできない。
一方、大桑村の自給的農家の農地面積は0.3ha未満だ。実際私が先祖から引き継いだ水田の面積はおよそ0.1ha(1反)。なんで田んぼがその大きさなんだ?と言えば、それは一家が食べていける量のコメが収穫できる田んぼを代々引き継いできたからと言える(少なくとも当家の場合)。再び「日本のコメ問題」の試算によれば、0.5ヘクタール未満の稲作だと5㎏あたり391円の赤字になるそうだ。つまり0.5ha未満の稲作農家は自分が作った5kgのコメを391円払って食べていることになる。一方コメ5㎏をスーパーで買って食べると2,500円位払うので、作った方が店で買って食べるより断然安い。おまけに先祖代々の財産の水田を自分の代で放棄するのは結構なプレッシャーとの闘いだ。コメを買って食べるという習慣があまり無ければ尚の事で、先祖代々の水田で稲作を続ける方が色んな意味で総合的に選ばれるのだろう。
但しちゃんと動く農業機械があればの話だ。農業機械は結構高い。18馬力トラクターで168万円と広告にでていた。もしも農業機械が壊れて使えなくなり、新たな機械を購入するとなるとコメをつくるコストに農業機械のローン代金が加わるので状況は大きく変わる。長期的にみると農業機械も必ず寿命を迎えるので、先祖代々の水田で稲作を続けたい気持ちがあってもいずれ難しくなることを示唆している。けれども、その日が来るまでとりあえず今のままを続けることになるような気もする。
大桑村では水田の集約化は難しいかもしれない。地域計画が集約化(大規模化)による農業経営を前提にしているのならば、大桑村での適用は困難な雰囲気が漂う。つまり、担い手が大桑村に来る可能性がとても低いことを示唆している。
どうしたらいいの?
そもそもコメ余りの時代だ。スーパーで広く流通しているコメと同じ種類のコメを作っても余程大規模に稲作しない限り利益は得られない。利益を得るには、高く売れる種類のコメを作ることになる。いわゆるブランド米的な商品に期待が集まる。0.5haでも十分な収益が得られる企画が生まれれば先が見えるかもしれない。つまり、大桑村の中山間地農業が考えた方が良いのは農地の集約化ではなく、少ない耕作面積でも利益がでる可能性がある品種を栽培し、それを利益が確保できる流通方法で販売するということのように思えてきた。
その入り口は有機米だと思う。以下が農ledgeに掲載されていた慣行栽培と有機栽培の10a当たりのコスト・売上比較だ。有機米に独自ブランドと独自流通ルートが確立できれば更に販売単価を高めることができ、それなりのビジネスになるのかもしれない。
種別 | 売上(円) | 経費(円) | 利益(円) | 労働時間 | 収益/時 |
慣行水稲栽培 | 97,000 | 75,000 | 22,000 | 31 | 710 |
有機水稲栽培 | 181,000 | 112,000 | 69,000 | 69 | 1,000 |
実際、首都圏の有機野菜専門スーパーでは有機米がキロ1000円で売られている。独自流通ルートで店頭に並んでいるので生産者の販売価格はそれなりの金額だと想像できる。

しかし、仮に有効な企画が生まれたとしても問題は担い手だ。高齢化の進む村内から担い手が現れることは期待薄に思える。村外から担い手を呼び寄せるとしても、一般企業の求人と同じで、ある程度実績のある、あるいは収入が保証された農業形態(企画)が無い事には、その実現は容易ではないと思う。つまり、ポテンシャルをアピールするために企画の先行事例、すなわちパイロット・プロジェクトが必要になる。
大桑村地域おこし協力隊の金井元さんは大桑村の休耕田で高付加価値米の栽培に取り組んでいる。有機農法に加えて、香り米など特色のあるコメを栽培しニッチなマーケットを狙っている。ニッチなマーケットはそれ自体が特徴(こだわりと言ってもいいかもしれない)があるので、そのマーケットで認知されれば大衆向けのスタンダード商品に比べて高い単価での販売が可能になる。一方、ブランドの認知は信頼によって裏打ちされているので、信頼を獲得し維持する「何か」が求められる。
ではどうやって信頼されるブランドを作り上げるか。。。
なかなか難しい話なので次回に続く。
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